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路面電車の走る町で、時間給教師をしながら暮らす「私」。紺青の刺青を背負った正吉さん、本式のネルドリップでコーヒーを出す居酒屋を切り盛りする女将さん、パラフィン紙で本を包む際には見事な腕前を発揮する古本屋の筧さん、そして「私」の大家であり旋盤工場を営む米倉さん等々と、緩やかな関わりを持ちつつ、物語は進みます。

人に対しても町に対しても、そして現在に対しても過去に対しても、等しく親しみの籠った目が向けられているようで、そんな視線を辿る内、いつしか自分もこの舞台となった場所に身を浸しているような、そんな錯覚を味わいました。その控え目な愛情は物にも注がれていて、例えば正吉さんが居酒屋に置き忘れていったカステラや、リサイクルショップで買った古い型の自転車などが、物言わぬ脇役のように存在感を発揮しています。

「山間部を走る高速道路のサービスエリアの喫茶コーナーで完璧なサンドイッチと完璧な珈琲を出すような仕事をしてみたい」というのが二十歳くらいの頃の夢だった、と語る主人公に、私はほとんど親近感のようなものを感じます。ただ、最も親愛の情を覚えたのは、大家さんの中学生になる娘さんである咲ちゃんでした。全体的にセピア色のように穏やかな風景の中で、彼女だけはまるで色鮮やかな花のように眩しい溌剌さ。
陸上競技会でゴールを目指し一心に駆けて行く咲ちゃんの背中を見送る場面がラストシーンになるのですが、唐突とも思えるこの終わり方のおかげで、この町の親密な空気や人々の息遣いが瞬間凍結されて永遠に私の中に残っていきそうな、そんな予感を覚えたのでした。
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2008.09.30 Tue l 歴史・時代小説(日本) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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