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河岸に停泊した船に暮らし、本を読んだりレコードを聞いたり料理をしたり、時折訪れる友人たちと言葉を交わしたり、そんな主人公の日々……、と要約してしまうと「ただそれだけの」という印象を与えてしまいかねないのですが、それは私が言葉足らずなだけであって、これは実に実に豊潤な物語でありました。

最初から最後まで「彼」とのみ呼称される主人公の視線に、時には寄り添い時には少し離れて、日々なだらかに過ぎる毎日を眺める、その距離感がちょうど良くて、心地よいのでした。主人公と、彼に関わる人たちとの距離感も、またしかり。

「彼」の過ごす毎日には、ほとんど羨望のようなものを感じるのですが、しかしよくよく考えてみれば私が憧れたのは描かれる生活そのものではなく、その中心にある主人公の内面のありよう、なのでしょう。
ためらい続けることには、矛盾するようですがきっと覚悟が必要なのだと思うのです。覚悟、という言葉が強すぎるならば、「芯」と言い換えてもいいかもしれません。芯が脆弱なまま揺らいでいけば、どこまでもどこまでも流されてしまうのだろうし、自らの意思でたゆたうことと、意識せぬまま流されていくこととは、見た目は似ていても明らかに違う。そして、流れの中で錨の役目を果たすのが、きっとその「芯」となるものなのだ、と思ったのでした。

こちらの内面がどれほど波立っていても、あるいはどれほどささくれ立っていても、ページを開いて数行読んだだけで、心が穏やかに凪いで充たされる、そんな得難い一冊でした。この感動をうまく言葉に出来ないのがもどかしくて、でもそれは何故かと考えてみたならば、きっと私の内面の奥深く、自分でものぞき見ることができないくらいの深部に、カタチとして想いを取り出すことが難しいくらい、しっくりと染み込んでしまったからだと思い至りました。

でも、どこにそれほど心惹かれたのか、具体的な例を挙げることならば可能です。例えば「彼」が自分で食材を調達するところから始まる食卓の場面であったり、居住空間である船内に存在するあらゆる物のリストであったり、頻繁に引用される私には未知の本であったり。冒頭に、今年度早々に魅了されたブッツァーツィーの短編を主人公が読む場面があったのも、嬉しい偶然でした。


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2008.08.26 Tue l 日本小説(未分類) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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